ブーブー、テーブルの上の携帯が小刻みにふるえる。
友人Yから電話。
かばちゃん似の彼のいる友人Y。
電話にでると、いつものように自分の環境の変化から他愛も無い話。
アタシは知ってる、知ってるよ、このとてつもなく退屈な君の話を
指先がイジイジするのを我慢して、電話を切らずに乗り切ることが出来たら、
その向こう側には君が本当に告げたい自分の身の上だけに起きた
はかり知れない程アタシにはどうでもいいプチ自慢話が待ってることを。
だけどね、それはとてつもなくアタシにはどうでもいいことだとしても、
意外とアタシの悪友たちは君の話をネタとして楽しみにしてるんだ。
だから、アタシは君の電話を無視するわけにもいかないし、
ましてや世俗的な「あごめん今ちょっと忙しいから後でかけなおすね」
なんて見え透いた嘘で電話をきることもできやしない。
必ず君と一緒にその「君の向こう側へ」たどり着かなくちゃいけないんだ。
「あ、それとね・・」
そう、その言葉を待ってたんだよ。それこそが向こう側への扉の呪文。
向こう側の扉が開き始める。
「ん?どした?」
そう言って、アタシはその扉をさらに押してやる。
「私、8月に結婚するんやー」
見えたっ!扉の向こうの景色が!
その景色は開くたびに違うけれどもその扉の向こうには必ず何かが待っていた。
それを言うなら再婚だろ・・心の中で思った。
しかし、「再婚」という言葉をあえて使わない所に君ののプライドがある。そうだよね?
そう気づいたアタシは、彼女のプライドを傷つけないようにそっと話を進める。
「結婚じゃなくて再婚やろ?」
「う、うん。」
「あ、おめでとう!今度は幸せになるんだよ!」
そっと、そっと話を進める。
君の幸せはアタシの幸せなんだよと、心からそう思ってる(ような口ぶりで)。
「う、うん・・ありがとう」
「式は挙げるん?」
「子供と彼と4人で、海外で挙げるつもりなんや」
「あ、いいねー。写真できたら見せてね。お祝い いらないよね前の時あげたし」
「えーなんでぇ〜」
「また、いつ出戻ってくるかわからんし」
「ちょっとぉ〜」
「いや、とにかく良かったねおめでとう」
そろそろ終わりだ。扉の閉まる時間。
小高い丘の上の教会の鐘が鳴り響き、彩り豊かな花たちがそよ風に揺られ、
青く澄んだ空には小鳥たちが歌う。
それらすべての景色を目に焼きつけ、閉まりかけた扉の方へ足を進める。
しかし、彼女もまた知っていた。
アタシが、この「向こう側」の景色に留まる事は無いということを。
彼女は必死に扉を閉めようとする。
足を少し速める。
アタシはここに閉じ込められてしまうわけにはいかないんだ。
知っている癖にいつも閉じ込めようとする。
「ありがとう。別に私はどっちでも良かったんやけど、
彼がどうしても私じゃないとあかんって言うから。
ズルズル付き合うのも周りにも子供にも良くないから早く結婚しよう
ってずっと言われてて、家も建てたいって彼は言ってるんや、
私はそんなに家に興味はないんやけどなぁ〜。
もう今、なんか彼が私のこと好き過ぎてあかんのや
ちょっとしんどくなるときがある。」
「胸焼けして死んでやろうか?」
「えー、なにそれぇー」
閉まりかけた扉にぎりぎり手をかける。力いっぱい引く。
だけど、それだけじゃ開かない、わかってる。
アタシはその扉を開いた時と同じように呪文を唱える。
「あごめん、今ちょっと忙しいから後でかけなおすわ。」
完
2008/01/24(木) 18:19:07|
三十路ライフ
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